コラム

ショパンエチュードop.10-5「黒鍵」の演奏について

来月に「黒鍵」の勉強会を開きますが、皆さんとレッスンをする中で、繰り返しお話していることを挙げておきたいと思います。

  • ベートーヴェンの晩年の頃出来上がってきた新しいピアノの機能を駆使してショパンたちは作曲し、ロマン派のピアノ音楽が生まれました。ピアノの名手だったショパンやリスト、そしてそれ以降の作曲家たちが創り上げたかった音楽世界を実現するためには、彼らが必要としていたテクニックを身につけないとなかなか困難だと思います。
    そのテクニックを獲得していくために、エチュードがあるのだと思います。ですから、指定されているテンポを無視せず、どのようにしたらそのテンポに近づけるか、を考えなくてはならないのです。
    そしてその速さに体が慣れないと、指を快速に動かしながら、多声で聞いたり、旋律を歌ったり、強弱をつけていくのは、とても大変なことになります。
  • 1本1本指を動かしているのでは、美しく速いパッセージを弾くことはできません。しなやかな腕、手首、指を駆使することが必要です。

それでは、「黒鍵」での具体的な注意事項をあげたいと思います。

  • まず、右手はレガートの指示があることに注意してください。
    1拍に6個の16分音符が入っていますが、それを旋律としてまとめて、なおかつクリアにブリランテに弾くにはどうしたらよいか、ということです。
    ソシレソミソレソシレソシのレソシで152の指使いになりますが、この15を使ってポジション移動をする際は手首を少し高めにして、15の指がしなやかに立ち気味になるときれいなラインをつくることができます。
    また、拍の頭の音を打った力で残りの5個の音を弾くようにすると(音が抜けたり、フニャフニャになるわけではありません)フレーズ感ができます。
    結局手首を上下左右に必要最小限(エコ運転)に動かして、指がスムーズに動いていけるようにするのです。
    そのためには、ピアノと体の間の空間を保つことが大切です。

    さらに各指を鍵盤の手前で打つか、奥で打つかなどもスムーズな運指ができるかを決めていきます。
  • ショパンの曲は左手だけ弾いても、素敵です。
    つまり、左手は右手と別個に弾けてこそ美しく、生き生きと奏でることができます。
    それぞれが独自に歌っているけれど、ぴたっと縦に合うと素晴らしい響きが生まれる、というのがショパンの抜きんでた才能だとつくづく思います。
    ですから、左がシンコペーションのリズムでも右手は左のアクセントに連動しない、などのことは留意してください。
  • 拍子は大変重要です。この曲が8分の4拍子にならないようにしましょう!
  • 強弱記号や発想標語はつねに気を付けて。
    それは演奏者へのショパンからのメッセージです。
    どの音を山として1つのフレーズにしているのか、などを読み取って、ショパンの想いを実現したいものです。

「小犬のワルツ」の演奏の際の留意点として、以下のことをあげたいと思います。

  • 小刻みに体が揺れない
  • 右手の指の付け根を高くして、しなやかに指を動かす。明るく軽い音色は浅い打鍵では実現できず、1点芯をとらえた打鍵が必要です。
  • 左手は和声の進行に従って、ディナーミクをつけ、2・3拍の和音が詰まっていかないように気をつける。
  • 最初の4小節で速くしすぎず、再現部の導入では、しっかりクレッシェンドをかける。
  • ペダリングに気をつけて。1拍目の音が決して濁らないようにすると、すっきりします。
  • 左右がそれぞれ楽しく流れて、それが縦にも合っていることが重要だと思います。

ノクターンop.9-2を演奏する時の留意点

・楽譜に書き込まれている強弱記号、スラーのかかり方、指使いなど仔細に見て、忠実にショパンの伝えたかったことを読み取る。

・右手はつやのある音で歌い上げたいので、しなやかな手でピアノを鳴らす。装飾音も機械的でなく、節回しを考えて。いかに歌い上げるか、それが命です。

・左手は3拍で1つの和音を作っているので、和音の根音であるバスに4拍子の感覚を持つと、曲が8分の12拍子として気持ちよく流れていきます。また、和音の根音は柔らかく深く、後の2個の和音はつなげて、上の音が美しく聞こえるようにすると、右の旋律と重なって、それは繊細な表情が出てきます。和音の3個目の音の離し方を乱暴にしないこと。そのためには、腕や肩を固くしないことが大事です。

・ペダルの記号では、ペダルを踏む深さや量はこまかくわかりません。濁るか否か音の並び方などを考えつつ音を聴いてペダルの踏み方を決定して、透明感のある演奏にしましょう。

・結局、歌い上げる右手と柔らかくハーモニーを添えていく左手とは動き方が全然違うので、 左手が自動運転できるように練習しておくことが、歌っている右手についていけるのだと思います。

CD-Rの移り変わりについて

10年前位に体の不安から自分の音を残そうと、録音を始めました。
ホールで録音し、いざCDにしようした時、いったん作ったCD-Rと違う
印刷できるCD-Rにすると音がかなり違うことに気づき、ショックを受けました。
それから、会社に問い合わせたり、何枚もの違うCD-Rを聞き比べたりしました。
その結果、太陽誘電の日本製のゴールドの音楽CD-Rで3種類のCDを出しました。
ところが、太陽誘電がCD-R製造から撤退して、今やそのゴールドのCD-Rは高額なプレミアム
価格になって、入手も困難になっています。
iTunesなど音楽を聴くツールもどんどん変わり、携帯電話などで聴く人のほうが、
CDプレイヤーなどの従来のオーディオ機器で聴く人より多いと思われます。
私のCDを増刷しようにも、どうしたものやら?と考えてしまいます。
結局、生の音楽を聴くのが1番と思いますが、録音物を聴く幸せもどうしても手放せず、そういう
要望にも応えてくれる社会であってほしいと思います。

ベートーヴェンのソナタの勉強会を開くにあたって

5年以上も前に、ピアノの先生をされている♪ミューズの会の方たちから、子供たちが発表会で弾く曲目の選択枝を増やしたいと言われ て、勉強会は発足しました。最初は、ギロック、カバレフスキー、バルトーク、湯山昭、プロコフィエフらの子供用の作品を数ケ月に1回のペースで、皆で弾き あいしながら、音色や表現方法などを考えていきました。

そうしているうちに、ソナチネアルバムが先生方に軽視されていることに気づいて、ソナチネの数曲を全楽章取り上げることを私から提案し、それからバッハの小品やフランス組曲、モーツァルトのソナタ、ハイドンのソナタ、シューベルトのワルツなどを取り上げ、とうとうベートーヴェンにたどり着きました。

発表会を前にして、このようなことをする気になったのは、ベートーヴェンのソナタは音大の入試に必要で高校生の時、必死でさらったものの、入学してからはあまり取り上げられず、無理くり弾いていたその演奏スタイルをかなりの人が大人になってもずっと引きずっていることに気付いたからです。

素晴らしいピアニストでもあったベートーヴェンはオーケストラのような構成で作曲をしています。彼は「楽聖」といわれるだけあって、 その曲はめんめんと彼の気持ちや考えを語っていきます。悲嘆にくれたり、希望にもえたり、喜びがあったり、怒ったり、慰めがあったり、また、馬車の音、森 の雰囲気などの情景描写など、どの曲も本当に心の奥底にしみわたっていく感動があります。ところが楽譜を多声として読まず、硬い手で叩いたり、押したりす る方法で演奏することで、ベートーヴェンの美しさも躍動感も存在しなくなったりするのです。

今回、13人の方たちのベートーヴェンのレッスンを通して、いくつかの気をつけなくてはいけない共通点が浮かび上がりました。覚書の感じですが、書いていきたいと思います。読んでくださって、ご自分の演奏を見直すヒントになったら幸いです。

弾く姿勢について

ピアノにかじりつくような、また、のしかかるような姿勢ではなく、腰をしゃんとして、肩や手首の力を抜いて、指を鍵盤の底まで入れると、深い響きのある音が出てきます。また、小刻みに首などを振らないようにすると、曲の大きなまとまり(大段落)を感じられるようになります。その大段落がうまくつながってこそ、曲の道筋を聴き手に伝えることができるようになると思います。

また、手首や腕をかたくしないことも大事です。弱起の休符を手で感じるためにも、柔らかい手が必要です。

拍子を常に感じて

強・弱・中強・弱といった拍子感が体の中にあると、弱起やシンコペーションなどのリズムがいきてきます。その拍子感をしばしば分散和音の伴奏が作り出しています。ですから、左手でも右手でも分散和音を弾いている手が、拍子感を生み出すよう気をつけてほしいです。

和音の弾き方

和音は、柔軟でありながら、シャベルカーのように鍵盤をつまみあげるような指で弾くと、厚みのある音が出てきます。そのために、1の指は爪の角あたりで打つようにすると、うまく打鍵をコントロールできるようになります。

また、和音をかたまりとしてとらえず、オーケストラのように、いくつかの楽器の音が横に流れつつ、同時に縦に音が積みあがっていると考えると、和音のつなぎ方に敏感になります。1つ1つの和音がずれず、バランスがとれていることはもちろんですが、手首を上げて移動していると、音は切れてしまい、つなげるのはペダルまかせでは、レガートはうまくいきません。手首を下げて回しながら手を横に動かしていくように工夫し、指替えもうまく使って、和音をつなげてください。ピアノは音を出したら減衰するだけという弱点がありますが、響きのある音にしていくと、指としては本当はつながっていなくても、つながって聞こえます。その微妙な動きを研究すると、演奏がレベルアップすること間違いなしです。

指の動かし方

指をしっかり動かそうと思うあまり、バタバタと指を動かしてしまうことが多いですが、厚みのある音を並べたレガートにしようと思ったら、指は最少の動きで動かしましょう。 上げすぎないことが重要です。

楽譜の読み方

バッハ同様、多声の楽譜として読む必要があります。もちろん、音価を正しく、強弱記号を守る、など、常に楽譜を見直す姿勢もほしいです。(自戒を含めて。弾き慣れて、違うことをしていることは多々あります。)

気持ちをしっかり

ベートーヴェンの曲を弾く時は速くても遅くても、気持ちをしっかり持って、前向きに。すると、ベートーヴェンの精神があふれ出てきますよ。体力、そして、気力が必要です。ただ、気力を高く持てるためには、自分の技術に対する信頼が必要なので、結局、練習をする、ということに尽きるのですが。