「ゴルトベルク変奏曲」との付き合い その1

私が「ゴルトベルク変奏曲」にのめり込んだきっかけは、2013年にルーテル市ヶ谷センターホールで開いた「バッハの夕べ」というリサイタルのアンコール曲として、ふと思いついてアリアをさらい始めたことでした。

このアリアは後妻のアンナ・マグダレーナのためにバッハが編集した「楽譜帳1725」に入っていて、後日、それをバッハは主題として「ゴルトベルク変奏曲」でも使っています。
アンナ・マグダレーナはきれいなソプラノの声楽家だったそうで、たくさんの子供をもうけたほか、バッハの浄書稿や筆写譜の作成に協力したそうです。
明るいト長調でたくさんの装飾音がついているアリアに、私は、気持ちの良い晴れた日に美しい声のアンナが朗々と歌っているイメージを持ちました。
ただ、テンポを崩さず、歌のビブラートのように装飾音を弾くのは、大変難しかったです。
 
アリアを練習しつつ、つい次の第1変奏を「どんな曲かしら?」とさらい始めたところ、第1変奏は跳躍が大胆ながら楽しいはつらつとした曲で、「次は?」「次は?」と楽譜をめくっていく中で、最後までやめられなくなってしまいました。
簡単には弾けないのにやめられないというのは、この曲が何か魔力をもっているのでは?と何度も思いました。
バッハの作曲技法は対位法と言われ、いくつかの声部の旋律が模倣したり、呼応したりしながら、結果的に縦の音の響きもできていきます。
「ゴルトベルク変奏曲」はその旋律がうねうねと上がったり、下がったりすることが多く、上の声部が下の声部の下に降りてきたり、下の声部が上の声部を超えたりすることも多く、それが3本の声部で行われると、それぞれの旋律がどうからんでいるのかを掴むのがとても難しいです。
その上、本来2段鍵盤のチェンバロで弾く曲を1段鍵盤のピアノで弾くので、指の交差、手の交差で苦しい箇所があり、最初は「無理なのでは?」と思うこともありました。
 
そんな時、素晴らしいピアニストのペライアがゴルトベルク変奏曲のCDのブックレットに「誰でもジレンマに陥る曲だ」と書いているのを見て、ペライアでもそうなら、と励まされたことは今でも心に残っています。

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