「ゴルトベルク変奏曲」との付き合い その2

「ゴルトベルク変奏曲」はグレン・グールド、カール・リヒターをはじめ、多くのピアニストやチェンバロ奏者がCDやレコードを残しています。
また、研究書や解説書も多く出版されています。

「ニューグローヴ世界音楽大辞典」の第16巻の「変奏曲」の項目に、「ゴルトベルク変奏曲」について簡潔にまとめられた解説があります。

<フーガの技法>がおそらく(変奏曲の)1つの伝統的なタイプの究極的な形を表すものといえるように、<ゴルトベルク変奏曲>もまたバス骨格を用いた変奏曲の発展の芸術的頂点を示すものである。
この曲の中には、カノン(第3、第6、第9変奏など)、舞曲風な曲(第4、第19変奏)、インヴェンション(第1、第22変奏)、コンチェルト楽章(第13、第25変奏)、トリオ・ソナタ楽章(第2変奏)、フゲッタ(第10変奏)、序曲(第16変奏)、トッカータ(第29変奏)、クォドリペット(第30変奏)が含まれ、対位法的テクスチュアと協奏曲的テクスチュアの統合体となり、また、イタリア、フランス、ドイツの形式の統合体ともなっている。
さらに、この多面的な作品は3つめごとの変奏曲が(順次同度から9度までの)カノンを成すこと、アリア自体が最初と最後に現れること、曲の後半が序曲で始まること、といった秩序に支配されているのである。

このような小宇宙のような曲1つ1つを、どういうテンポで、どのような色合いで弾くのか、そして1つの変奏曲としてのまとまりのある曲にするか、ということを模索していく日々が続いていきました。
というのも、バッハの楽譜には、テンポや表情記号がほとんど無いからです。

私はカーク・パトリック版の楽譜に書いてある速度や曲の解説をだいぶ参考にしました。
とは言え、違和感を覚えるものもあって、何枚ものCDを何度も聴いてみました。
けれどもゴールドベルク変奏曲は32曲で成っている曲なので、全ての曲が自分にピタっとくるものは無く、最後は、基本は押えつつ、自分の感性で曲を作ることに決めました。

録音しては聴き、録音しては聴きを繰り返していくうちに、例えば第3変奏は「優しく、きれいな曲なのだ」と気づいたりして、1曲1曲の色合いを確定していきました。
その過程で、「ゴルトベルク変奏曲」は暮らしの中でふっと想いにふけったり、クスクス笑っていたり、悲しみを切々と歌ったり、活気に満ちたり、と様々な情景とその時の感情をつづっているのでは?と思うようになりました。
そのため、1曲ごとにタッチを変えたりして色合いを変えていくことを目指したのです。

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