ショパンエチュードop.10-3「別れの曲」について

千蔵八郎氏の「名曲辞典」によると、ショパン自身、この曲ほど美しいものは書かなかったと考えていたそうで、ABAの作りのこの曲が、美しいAと激しく荒々しいBとでできているような分裂気味の曲ではないと思います。

まず、Aの部分はコルトーの言う通り、ポリフォニックな演奏を追求し、かつレガートで、メロディーがくっきり浮かび上がると格調高くなります。
そして、ショパンの強弱記号を守っていくと、ショパンの求める歌い方に導かれます。

最初の部分の4声の弾き方がまず大切で、メロディーは情感のある音で濃く、バスの4分音符は2声なので、2拍子に乗りつつ深く、シンコペーションのリズムは揺れを作っていきます。
問題は中声で、さわさわと薄くしたいので、2の指を食い込まないようにあまり曲げず、鍵盤から指が離れないようにして薄く弾くとうまくいきます。
ですから、2声を弾いている右手は5の指のほうに少し傾けると345の音を出しやすくなります。
この弾き方を確立すると、ほかの曲を弾く上でとても役にたちますので、コツコツ研究してください。

この曲のあらすじは、Aで「別れの時がきた」ということをしみじみ歌っていたのですが、Bに入ると、楽しかったときの思い出がよみがえり、そこからまたさまざまなことが思い出され、気分は高まっていき、はっと我に返って別れをますます惜しんでいくという曲ではないかと思います。
ですから、Bで右のミレミシと始まった後、左が遅れて入ってきますが、軽く弾くことで、右手を止めず、明るく楽しい音色で弾いてください。
また、和音の連続の部分はペダルなしでも旋律がつながるように、指が音を出す前に、手の甲を左右に動かして指をセットするようにすると、音が荒くならず、つながります。
結局、しなやかな指、手首、腕が必要なのです。さらに、アウフタクトの和音の連続は、しっかり拍を感じましょう。
そうすると、気持ちがアセアセと混乱してくる感じが出ます。アウフタクトを無視すると、拍子がずれ、和音の練習をしているかのような演奏になりますから、要注意です!

多声で弾くことに無関心で、ムードだけでこの曲を弾くと、全く品格が違ってきますので、是非、ショパンの「美しさ」を味わうべく取り組んでいただきたいと思います。

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