「ゴルトベルク変奏曲」との付き合い その3

私は6歳からバッハを弾いています。
ト長調のメヌエットなどを、「歌って!」「左右どちらも聴いて!」と先生から言われ続け、舞曲や協奏曲などはあまり抵抗がなかったのですが、「平均律曲集」はどう弾くべきか悩むことが多々ありました。

バッハを演奏する時の自分なりの軸(どのような演奏を目指すか?)が見えてきたのは、20年ほど前にヘンリク・シェリングが演奏するバッハの無伴奏ヴァイオリンソナタを聴いた時です。
音の1粒1粒が美しく、ヴァイオリンのボーイングで生まれてくる旋律の流れ、歌い方に惚れ惚れして、「私が目指すバッハはこれだ!」と思ったのです。
高橋アキ先生のレッスンでは、ともかくレガートの奏法を要求されていたため、旋律を歌うことを実現するやり方はかなりわかっていたので、どう歌うかを試行錯誤していました。

あとは多声の旋律の組み合わせ方です。どのようなバランスで弾いていくか?です。
アキ先生に「1音、1音確認する」とよく言われていましたが、これも試行錯誤する中で少しずつ自分なりの形が見えてきました。
そして、拍子感やテンポ感ですが、今回の「ゴルトベルク変奏曲」の録音前に参考にしたのは、チェリストのカザルスが指揮したブランデルブルグ協奏曲の生き生きした演奏でした。
できるだけ“拍子をとっていく指揮”を感じつつ、弾いていこうと思ったのです。
やってもやっても自分の足りなさを突きつけられながら、それでも飽きることがない曲、それが「ゴルトベルク変奏曲」だったのです。

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